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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3211号 判決

原告

アートメタル株式会社

右代表者代表取締役

山崎勝男

右訴訟代理人弁護士

田辺克彦

田辺邦子

田辺信彦

被告

太陽信用金庫

右代表者代表理事

若林廣吉

右訴訟代理人弁護士

本渡乾夫

田口秀丸

被告補助参加人

寺田晨治郎

右訴訟代理人弁護士

斎藤弘

右訴訟復代理人弁護士

吉田杉明

栗原浩

主文

一  原告と被告が、昭和五二年三月二三日に別紙物件目録(一)記載の建物について設定契約を締結した、根抵当権者を被告、債務者を原告、極度額を三〇〇〇万円、被担保債権の範囲を信用金庫取引、手形債権、小切手債権、保証取引、保証委託取引とする根抵当権は存在しないことを確認する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項同旨

2  被告は、別紙物件目録(一)記載の建物について東京法務局北出張所昭和五二年四月四日受付第九八一六号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

3  原、被告間の昭和五三年七月一一日付債務保証委託契約に基づく原告の被告に対する求償債務金二六二七万五一五四円およびこれに対する昭和五六年四月二六日より完済に至るまで年一八パーセントの割合による約定遅延損害金の支払債務の存在しないことを確認する。

4  原、被告間の昭和五五年三月三一日の手形貸付契約に基づく原告の被告に対する金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月二日より完済に至るまで年一八パーセントの割合による約定遅延損害金の支払債務の存在しないことを確認する。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、もと原告が所有していた別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物(一)」という。)につき当庁民事第二一部に競売開始決定の申立をなし昭和五六年九月四日右決定がなされた。

2  確かに、本件建物(一)には、被告を根抵当権者、原告を債務者とする、東京法務局北出張所昭和五二年四月四日受付第九八一六号根抵当権設定登記(昭和五二年三月二三日設定、極度額三〇〇〇万円、被担保債権の範囲・信用金庫取引、手形債権、小切手債権、保証取引、保証委託取引)(以下「本件根抵当権設定登記」という。)が存する。

3  そして、被告は、原、被告間で、昭和五二年三月二三日、本件根抵当権設定登記に掲記の根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)が締結されたと主張している。

4  更に、被告は、本件根抵当権設定契約によつて設定された根抵当権の被担保債権として、原告に対し請求の趣旨3記載の債権(以下「本件債権(一)」という。)及び同4記載の債権(以下「本件債権(二)」という。)が存する旨主張している。

5  しかし、原告は被告から本件債権(一)及び同(二)の借受けたことはないし、また、原告が被告との間に、右債権を被担保債権とする本件根抵当権設定契約を締結したこともない。

よつて、原告は被告に対し本件根抵当権設定契約による根抵当権及び本件債権(一)、同(二)の各不存在の確認と、本件根抵当権設定登記手続の抹消登記手続を求める。

6  仮に、本件建物(一)につき、原、被告間に本件根抵当権設定契約がなされたとしても、右建物は昭和四九年頃取り壊され、右契約時には消失し、その跡地には別個の建物である別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物(二)」という。)が築造された。

よつて、原告は被告に対し、本件根抵当権設定契約は無効であるから、本件根抵当権の存在しないことの確認と本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1ないし4の事実はこれを認める。

2  同5及び6の事実はこれを否認する。

本件建物(一)は、昭和四一、二年ころ及び昭和四八年ころに増築が行われた結果、別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物(二)」という。)になつたものであり、本件建物(一)と本件建物(二)は同一性を有するものである。

三  被告らの抗弁

1  原告と被告は、昭和五二年三月二三日、本件建物(一)につき本件根抵当権設定契約を締結し、右契約に基づいて本件根抵当権設定登記手続を行つた。

2(一)(本件債権(一)について)

(1) 原告は、訴外株式会社日本債権信用銀行(以下「訴外銀行」という。)から、昭和五三年七月一一日、次の約定の下に金三〇〇〇万円を借り受けた。

(ア) 利息 年八パーセント

(イ) 遅延損害金 年一四パーセント

(ウ) 弁済方法  昭和五三年九月一〇日から昭和六三年七月一〇日まで一一九回に分割し、毎月一〇日限り、第一回から第一一八回までは各金二五万円宛、第一一九回には金五〇万円を、各々利息を付して支払う。

(2) 原告と被告は、右同日、次のとおり、右債務についての保証委託契約を締結した。

(ア) 被告は、原告の訴外銀行に対する右(1)記載の消費貸借契約に基づく返済債務につき連帯保証する。

(イ) 被告が、原告に代わつて、訴外銀行に対し、右消費貸借契約に基づく原告の債務を弁済するについては、原告は、弁済の時期、方法、金額等を被告に一任し、被告は原告に通知することなく右弁済をすることができる。

(ウ) 被告が原告に代わつて訴外銀行に対し右消費貸借契約に基づく原告の債務を履行したときは、原告は、被告に対し、被告の出捐した全金員相当額及びこれに対する年一八パーセントの割合による損害金を支払う。

(3) そして、被告は、訴外銀行に対し前記(1)記載の債務を連帯保証したが、原告が訴外銀行に対し、右債務のうち五五〇万円を支払つたのみで、その余の支払いを懈怠したため、訴外銀行に対し昭和五六年四月二五日、原告の訴外銀行に対する残債務合計金二六二七万五一五四円(元金二四五〇万円、利息一六三万〇〇七七円及び損害金一四万五〇七七円の合計)を原告に代わつて支払い、右同日、被告は原告に対し、右同額の求償権及びこれに対する支払ずみまで年一八パーセントの割合による約定損害金債権を取得した。

(二)(本件債権(二)について)

(1) 被告は原告との間に、昭和五〇年六月二日、継続的金融取引契約を締結したが、右契約によると、原告が被告に対して負担するに至つた債務の履行を遅延したときの損害金を年一八パーセントとする旨合意した。

(2) 被告は、右約定に基づき原告に対し、原告の代表取締役寺田晨治郎(以下「寺田」という。)を介して昭和五五年三月三一日、弁済期日を同年六月三〇日と定めて金三〇〇万円を貸し渡したが、原告は、昭和五六年四月一日までの利息を支払つただけでその余の支払いをしない。

(3) 仮に、右貸付当時、既に寺田が原告の代表取締役を退任しその地位になかつたとしても、寺田の原告代表取締役退任の登記がなされたのは右貸付のなされた後の昭和五五年四月五日である。

(4) このように、被告は、原告に対し、右貸金金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月二日から支払ずみに至るまで年一八パーセントの割合による遅延損害金債権を有している。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、寺田の原告代表取締役退任の登記が昭和五五年四月五日になされたことは認め、その余の事実は全て否認する。

五  原告らの再抗弁等

寺田は、昭和五五年三月一日の取締役会で原告の代表取締役を解任されており、本件債権(二)の貸付のなされた同月三一日当時は原告の代表取締役の地位にはない。

そのことは、原告は、被告に対し、昭和五五年三月中旬ころ、寺田が同月一日の取締役会で代表取締役の地位を失つた旨通知しており、被告は、本件債権(二)の貸付日である同月三一日当時、寺田が原告の代表取締役でないことを知悉していた。

従つて、寺田の代表取締役退任の登記が右貸付日後になされたものであつても、原告は被告に対し、本件債権(二)の消費貸借契約が無効であることを対抗することができる。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告の請求原因1ないし3記載の事実は当事者間に争いがない。

そこで、被告の抗弁につき順次検討する。

二(本件債権(一)の存在)

1  〈証拠〉によると次の事実が認められ、他に、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和五三年七月ころ、被告との間に二五〇〇万円に近い債務を負担し、その返済に窮したため、被告のあつせんにより、同年七月一一日、訴外銀行から被告の抗弁2(一)(本件債権(一)について)(1)記載どおりの約定のもとに金三〇〇〇万円を借り受けた(以下「本件消費貸借契約(一)」という。)。

(二)  そして、原告は、被告に対し、前同日、原告の被告に負担する借受金等債務合計額二四八一万一三〇五円を弁済し、それと同時に、被告との間に抗弁2(一)(本件債権(一)について)(2)記載とおりの債務保証委託契約を締結した。

(三)  そこで被告は、訴外銀行に対し本件消費貸借契約(一)に基づく原告の右債務につき連帯保証をしたが、その後、原告が訴外銀行に対し、右債務弁済につき、割賦弁済金の二二回分、即ち昭和五五年六月分まで支払い、同年七月分よりの支払いを怠つたため、原告に代位して、訴外銀行に対し、昭和五六年四月二五日、元本残額二四五〇万円に利息一六三万〇〇七七円及び遅延損害金一四万五〇七七円を各々付し、合計金二六二七万五一五四円を支払つた。

2  右事実によると、被告の抗弁2(一)(本件債権(一)について)の主張のとおり、本件債権(一)の存することを認めることができる。

三(本件債権(二)の存在)

1  〈証拠〉によると原告の代表取締役寺田は被告に対し、原告が被告に対して昭和五五年三月三一日を満期とする手形債務三〇〇万円を負担していたため、右同日、右債務を弁済するため、原告振出しの支払期日を同年六月三〇日とする額面三〇〇万円の手形を交付し、被告長崎支店から三〇〇万円の手形貸付を受けた。

そして寺田は被告長崎支店から右同日、右貸付金の三か月分の利息七万六八六一円を天引した二九二万三一三九円を現実に受領し、右金員に、原告の被告長崎支店に有する当座預金の中から七万六八六一円を引きだしこれを加えて、昭和五五年三月三一日を満期とする手形債務三〇〇万円を弁済し決済したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実によると、被告の抗弁2(二)(2)(本件債権(二))のとおり本件債権(二)の存することを認めることができる。

3(寺田の代表権喪失に関する判断)

(一)  本件債権(二)の契約当時寺田が原告会社の代表取締役の地位にあつたか否かにつき争いがあるので考えるに、官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については〈証拠〉によれば、原告の取締役山崎勝男(以下「山崎」という。)は、昭和五五年二月二五日、原告の代表取締役寺田及び同取締役訴外三本菅丈夫に対し取締役会の招集通知を郵送し、同年三月一日、取締役三名全員出席の下で取締役会が開催され、原告代表取締役寺田の解任及び山崎の代表取締役就任の議案が三分の二の多数をもつて賛成可決されたことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、寺田は、昭和五五年三月一日をもつて原告代表者の地位を失い、本件債権(二)の契約当時は原告の代表取締役の地位になかつたことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  しかしながら、被告主張のとおり、寺田の原告代表取締役退任登記が、本件債権(二)の契約当時は、いまだなされておらず、昭和五五年四月五日になされたことは当事者間に争いがない。

(三)  そこで、原告の主張によると、被告は、本件債権(二)の契約当時原告からの通知によつて寺田が原告代表取締役の地位になかつたことを知つていたといい、確かに、原告代表者本人の供述中に右主張に沿う部分が存するが、右供述部分は前掲証人水村の証言に照らして措信できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はなく、却つて、〈証拠〉によると、原告から被告に対し、原告会社の代表取締役が寺田から山崎にかわつた旨の通知が本件債権(二)の契約後の同年六月末頃になされたことを認めることができる。

(四)  右事実によると、原告は被告に対し、本件債権(二)の契約当時、寺田が原告の代表権を喪失していたことを対抗することはできない。

四(本件根抵当権の存在)

1(本件建物(一)の存在)

原、被告間に、本件根抵当権設定契約当時、本件建物(一)が存在していたか否かにつき争いがあるので以下考える。

(一)  〈証拠〉を総合すれば以下の事実を認めることができる。

(1) 山崎は、昭和二八年ころから、東京都北区田端町一一四一番地において、スチール家具の金属部分の製造販売業を営んでいたが、右田端町の作業場が約一〇坪程度の広さしかなく、手狭になつたため、昭和三七年三月二〇日、訴外金子勇作(以下「金子」という。)所有の本件建物(一)の主たる建物(東京都荒川区東尾久二丁目七四四番地所在、家屋番号七四四番二、木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建工場、床面積74.38平方メートル)を、同人から、賃料一か月三万円、期限を三年と定めて借り受けた。

そして、山崎は、昭和三七年九月一〇日、金属家具の製造販売及び金属管製品の製造加工を目的として、寺田や訴外善浪一雄(旧姓横田)(以下「善浪」という。)らと共に、資本金二〇〇万円で原告会社を設立した。原告会社設立に際し、右三名のうち最も年長者であつた寺田が原告の代表取締役、山崎は取締役、善浪は監査役に各就任したが、原告会社は設立当初から、その実質的な運営は、山崎が常勤して行い、寺田や善浪は非常勤として就労するにとどまつていた。

ところが、山崎が、昭和三九年九月に入院することになつたため、山崎の依頼を受けて、善浪が、実質上、原告の経営全般を掌るようになつた。山崎は、昭和四〇年暮に退院したが、しばらくの間自宅療養をしていたところ、昭和四一年一月に寺田が善浪に代わつて原告の実質的経営権を取得するに至り、以後昭和五五年三月に至るまで、寺田が名実共に原告の代表取締役として原告の経営にたずさわつてきた。

(2) 山崎が金子から本件建物(一)の主たる建物を賃借した当時、本件建物(一)の主たる建物の東側には、金子所有の本件建物(一)の附属建物(木造瓦葺二階建居宅、床面積一階24.79平方メートル、二階19.83平方メートル)が存し、右附属建物は、ダンボールを扱う業者である訴外明治紙器が使用していた。

また、本件建物(一)の主たる建物の南側には、同じく金子所有の建物(木造平屋建物置床面積約9.9平方メートル)(以下「本件南側建物」という。)が存し、右建物は、プレス業を営む訴外久保田が使用していた。

当時、本件建物(一)の主たる建物と同附属建物の間には約九〇センチメートルの間隔があり、また、本件建物(一)の主たる建物と本件南側建物の間隔は、最も近いところで約二〇ないし三〇センチメートル存した。

昭和三九年秋ころ、前記明治紙器は、本件建物(一)附属建物から退去し、また、前記久保田も近いうちに本件南側建物から退去することになつていたため、金子は、当時原告の実質的経営権を有していた善浪に対し、本件建物(一)の主たる建物、同附属建物及び本件南側建物の合計三棟の建物を購入しないかと持ちかけた。

善浪は、寺田や山崎と相談したうえ金子から、昭和三九年一二月一六日ころ本件建物(一)の主たる建物、同附属建物及び本件南側建物を買い受け、同時に、その敷地六五坪に借地権の設定を受け、その対価として原告は金子に合計七五〇万円を支払つた。そして、昭和四〇年一月五日、本件建物(一)(主たる建物及び附属建物)について、金子から原告への所有権移転登記手続がなされた。

(3) 原告は、昭和四一年頃前記久保田が、本件南側建物より退去したため、本件南側建物を中二階建に改築し、資材置場とし、また、本件建物(一)附属建物についても、床面積を拡大することによつて、原告の事務所とすることを計画し、昭和四二、三年ころ、原告は、大工である訴外岩淵某に対し、右工事を依頼した。

岩淵は本件南側建物を木造平屋建から木造中二階建の建物(以下「本件南側改築建物」という。)に改築し、また、本件建物(一)附属建物を従前の木造瓦葺二階建(床面積一階24.79平方メートル、二階19.83平方メートル)の建物から、木造亜鉛メッキ鋼板交葺二階建(床面積一階約57.85平方メートル、二階約26.44平方メートル)の建物(以下「本件建物(二)附属建物」という。)へと改築した。

右改築後、本件南側改築建物の北側壁面と本件建物(一)の主たる建物の南側壁面との間隔は約一〇センチメートルと狭まり、また、右両建物の屋根は、中間に共通の雨どい一本を共用する形で近接して設置されたが、右両建物は、各々別個の壁を有し、別個独立の建物であつた。

また、本件建物(一)の主たる建物の東側壁面と本件建物(二)附属建物の西側壁面も隣接していたが、右両建物の躯体は全く別であり、右両建物の間には空間が存していた。

(4) 昭和四二、三年ころに行われた右各改築の際には、本件建物(一)の主たる建物については何ら増改築はなされなかつたが、昭和四七、八年ころになると、本件建物(一)の主たる建物の雨漏りが激しくなつたため、原告は、昭和四八年一月ころ、建築業を営む、山鉄工業こと訴外山上久雄(以下「山上」という。)に対し、本件建物(一)の主たる建物の建替え工事を請負わせた。

(5) 原告は、山上に対し、本件工事に関し、本件工事期間中も本件建物(一)の主たる建物内で、金属管製品や金属家具の製造作業を継続したい旨要望したため、山上は、本件建物(一)の主たる建物を壊してから新たな建物をそこに建てるという通常の建替方法をとらず、まず先に、本件建物(一)の主たる建物の外壁及び屋根の外側に、右建物をすつぽりと覆うようにして、一廻り大きい建物を建築し、それが完成した後に、本件建物(一)の主たる建物を取り壊すという通常とは反対の順序で建築することにし、まず、新たに建築する建物(以下「本件新築建物」という。)の基礎工事を行つた後、昭和四八年二月一〇日ころから本件建物(一)の主たる建物の屋根の一部取壊しを行い、その壊した部分に本件新築建物の柱を築造した。右柱の材料としては、北側壁面の柱には、H鋼鉄骨が、他の部分の柱には、C鋼軽量鉄骨が各々用いられた。山上は、柱を築造した後、本件建物(一)の主たる建物の屋根のやや上方に、右各柱に基づいて、本件新築建物の鉄製ルーフデッキの屋根を築造した。

また、本件新築建物の壁については、山上は、北側、東側及び西側の各壁面は、新たに波型鉄板貼の壁を築造したが、南側壁面は、新たには設置せず、本件南側改築建物の北側壁面と壁を共用する構造にし、これにより本件新築建物と本件南側改築建物は一棟の建物として接合されるに至り、別紙物件目録(二)記載の主たる建物(但し、構造は、鉄骨木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建)となつた。そして、本件新築建物と本件南側改築建物の間の壁面は、その東側より半分ないし三分の一くらいが通路として開けられ、右両建物は内部より相互に通行することが可能となつた。

このようにして本件新築建物が築造された後に、本件建物(一)の主たる建物の屋根や柱及び壁面等は全て取り壊された。

右の如き手順により、昭和四八年六月一〇日ころまでの間に本件建物(一)の主たる建物の屋根、柱及び壁は全て取り壊され、本件新築建物の建築工事が完了し、右同日ころ、山上から原告に対し、本件新築建物が引渡された。なお、前述のとおり、本件新築建物の建設に際しては、本件建物(一)の主たる建物の屋根、柱及び壁は全て撤去され、本件新築建物に、これらは一切利用されていない。

右認定に牴触する前掲証人寺田の供述部分は、前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右事実によると、本件建物(一)の附属建物は昭和四二、三年ころ、床面積を約二倍に増やし、構造も木造瓦葺から木造亜鉛メッキ鋼板葺に改築された際に、本件建物(二)附属建物となり、また、本件建物(一)の主たる建物は、昭和四八年六月一六日ころまでには全て取り壊され、その屋根、柱及び壁等一切利用されず、新たな材料によつて、同敷地に本件新築建物が築造されるに至つたことが明らかであるから、本件建物(一)は右期日限り滅失したということができる。

2(本件根抵当権設定契約の存否)

原、被告間に、本件債権(一)及び(二)を被担保債権として本件建物(一)につき本件根抵当権設定契約がなされたか否かにつき考える。

(一)  〈証拠〉によれば次の事実を認めることができる。

(二)  原告は、昭和四〇年八月ころ、被告(但し、被告は、昭和五〇年六月二日までは「太洋信用金庫」の名称で営業)の長崎支店に口座を開設し、被告との間で、手形割引等の金融取引を行つていたが、証書貸付、手形貸付、手形割引等の継続的な金融取引から生じる原告の被告に対する債務の担保のため、原告と被告は、昭和四〇年一二月三〇日、原告を債務者、被告を根抵当権者として、本件建物(一)に、極度額一〇〇〇万円の根抵当権を設定する旨の契約を締結し、昭和四一年一二月二二日、その旨の登記を経由した。

(三)  被告は、昭和五〇年六月二日、訴外光信用金庫と合併し、名称を太洋信用金庫から現在の太陽信用金庫に改めたのに伴い、原告と被告は、改めて継続的金融取引契約を締結し、原告が、被告に対する債務を弁済期に至るも履行しなかつたときは、支払うべき金額に年一八パーセントの割合による遅延損害金を付して支払うことや、被告が債権保全のために必要と認めるときは、被告の請求により原告は、増担保を差し入れること等を定めた。

右継続的金融取引契約については、昭和五〇年六月二日付で、取引契約書と題する書面(乙第一号証)が作成され、右書面の、原告の保証人の欄に当時の原告代表取締役寺田晨治郎と原告の取締役山崎勝男が各々自分の住所と氏名を自署し、捺印をした。

(四)  昭和五〇年六月二日当時、原告の被告に対する預金債権の額は約五〇〇万円であつたのに対し、被告の原告に対する貸付等による債権額は約一五〇〇万円であつた。そして、昭和五二年ころになると被告の原告に対する貸付等による債権額は約三〇〇〇万円に達したため、被告長崎支店の支店長代理で、融資を担当していた訴外水村憲二(以下「水村」という。)は、原告の代表取締役寺田に対し、増担保を要求し、その結果、原告の代表取締役寺田と被告は、昭和五二年三月二三日、原告を債務者、被告を根抵当権者とし、本件建物(二)(但し、主たる建物の構造は、鉄骨木造亜鉛メッキ鋼板葺)と、寺田個人の所有する、東京都豊島区長崎四丁目七番七所在宅地142.21平方メートル及び同所所在家屋番号五六番木造瓦葺平家建居宅床面積47.93平方メートルを共同担保として、極度額を三〇〇〇万円、債権の範囲を信用金庫取引、手形債権、小切手債権、保証取引、保証委託取引と定めて根抵当権を設定する旨の契約を締結した。

右認定を左右する証拠は存しないところ、前掲認定のとおり本件建物(一)は昭和四八年六月ころまでに滅失しており、本件建物(一)と同(二)とは全く別の建物であるから、被告及び補助参加人の主張するように右両建物が同一性を有するとはいえないことは明らかであり、従つて、本件建物(二)に根抵当権が設定されたからといつて、本件建物(一)に根抵当権が設定されたことにはならないこともまた言を俟たない。

3  以上の事実によると、被告の抗弁1の本件建物(一)につきなされた本件根抵当権の存在を認めることはできない。

五(本件根抵当権設定登記の抹消登記請求に対する判断)

1  前記四の1、2の認定事実によると、原、被告間の本件根抵当権設定契約当時、本件建物(一)は既に滅失しているのであるから、本件は本件建物(一)の不動産登記につき建物滅失登記がなされるべき筋合のものであつて、本件建物(一)に本件根抵当権設定登記が存するからといつて、原告が被告に対し右登記の抹消登記手続の請求をなしうるものではないし、なお、本件では原告は本件建物(一)の所有権に基づき右登記抹消を求めているようであるが、そうだとすれば、原告の本件建物(一)に対する所有権は前記のとおり本件建物の滅失によつて消滅しており、いずれにしても、原告の被告に対する本件建物(一)に存する本件根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める請求は失当といわざるをえない。

六(結論)

以上の事実によれば、原告の請求は、原告と被告が、昭和五二年三月二三日に別紙物件目録(一)記載の建物について設定契約を締結した、根抵当権者を被告、債務者を原告、極度額を三〇〇〇万円、被担保債権の範囲を信用金庫取引、手形債権、小切手債権、保証取引、保証委託取引とする根抵当権は存在しないことの確認を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山口和男 裁判官佐藤修市 裁判官定塚誠)

別紙物件目録

(一)(主たる建物)

所在

東京都荒川区東尾久二丁目七四四番地

家屋番号 七四四番二

種類 工場

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺

平家建

床面積  74.38平方メートル

(附属建物)

符合 1

種類 居宅

構造 木造瓦葺 二階建

床面積  一階 24.79平方メートル

二階 19.83平方メートル

(二)(主たる建物)

所在

東京都荒川区東尾久二丁目七四一番地三、七四七番地一、七五二番地

種類 工場

構造 鉄骨造鉄板葺 二階建

床面積  一階 142.24平方メートル

二階 46.28平方メートル

(附属建物)

種類 事務所

構造 木造亜鉛メッキ鋼板交葺

二階建

床面積  一階 57.85平方メートル

二階 26.44平方メートル

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